円の値動きの特徴とトレード戦略

トレード上達

あなたはFX取引を行う際、どの通貨ぺアを選択していますか?

日本人にとっては「円」が自国通貨ということ事もあり、親しみやすさといった理由から、ドル円をはじめとしてユーロ円、ポンド円などのいわゆる「クロス円」を好んで取引されている方も多いかもしれません。

しかしながら、円の性質をしっかりと理解した上で、ロジカルな取引を行っている方は意外と少ない印象を受けます。

私たちは自分の国の通貨について、知っているようで実は何も知らなかったりするのです。

円に限った事ではありませんが、各国の通貨にはそれぞれ特徴があり、政治や経済などの様々な要因が絡む事で需給は日々変化してます。

ただ何となく「馴染みがあるから」といって選ぶのではなく、通貨の特徴をしっかりと把握しておく事でより精度の高い取引が可能となります。

今回は、円の性質や変動要因、各通貨ぺアの見方などについてお伝えしていこうと思います。

円の変動要因

日銀金融政策

通貨の動向を見る上で、最も注目すべきなのがその国の金融政策です。
金融政策とは、各国の中央銀行が経済発展を目的として金融面から行う政策の事を指し、主に金融緩和や金融引き締めといったものがそれに該当します。

より具体的に言えば、金利を操作する事で世に出回るお金の量を調節し、物価の安定を図ろうとするものです。

そしてこの「金利」こそ、為替における最重要キーワードのうちの一つです。

極端な話、「為替相場は金利差によって動く」と言っても過言ではありません。

なぜなら、お金は常に有利な投資先を好むものだからです。

たとえば、日本の金利よりも米国の金利の方が高かった場合、投資家はより魅力のある金利を求めて「円」資産を減らし「ドル」資産を増やそうとするはずですよね。

その結果、円からドルへとお金が移動するというわけです。

したがって、各国の金融政策の方向性に目を向ける事で、その通貨を買うべきなのか売るべきなのかという大まかな筋道を立てる事ができるのです。

日本の場合、2012年より本格的な始動を見せた「アベノミクス」と呼ばれる安倍政権による経済政策のもとで、大幅な緩和スタンスが続けられています。

アベノミクスにおける基本方針は

  • 大胆な金融政策
  • 機動的な財政出動
  • 民間投資を喚起する成長戦略

の3つで、これらは「アベノミクス 三本の矢」とも呼ばれるようになりました。

中でも特に為替へ大きな影響を与えたのが「大胆な金融政策」で、昨今の円安傾向はこれが原動力になっているとも言われています。

2013年4月に発表された「異次元緩和」(日銀が国債を購入する事で市場へ大量の資金供給を行う)をはじめとして、2016年1月には日本でも初の試みとなる「マイナス金利」の導入が決定されるなど、文字通り大胆な金融政策が行われてきました。

その結果、円の価値は著しく低下し株式市場は上昇、それに伴うリスクオンの風潮の中でさらに円売りが促されるという連鎖が続いたのです。

今もなお、日銀の黒田総裁によれば「必要であればさらなる追加緩和を講じる」といった旨の発言が見られる事から、今後の日銀金融政策に注目が集まります。

また、近年では日米間における金融政策の方向性が逆である事にも目を向ける必要があります。

米国は2015年9月、リーマンショック以後7年間続けてきたゼロ金利政策を解除してついに利上げに踏み切りました。

雇用や物価の上昇が、利上げの条件を満たしたと判断したのです。

その後も米国の利上げ姿勢は崩れておらず、様々な紆余曲折は得ながらも2016年12月に再び利上げを実施。

2017年の現在も、緩やかな利上げペースを視野に入れているとの事です。

この事から、金融政策という観点から見た場合、ドル円に関しては今後も比較的底堅い展開が続くのではないかという事が予測されます。

もっとも、最近では日銀による追加緩和の限界も疑問視され始めている事から、そういった失望によって一気に円高へ振れる可能性も否めないので注意が必要かもしれません。

リスクオン・リスクオフ

円は一般的に「安全資産」と見られており、世界的なリスクの影響を顕著に受ける性質を持っています。

たとえば、とある地域や国で紛争が勃発したり、経済事情が悪化したりすると、そのリスクを回避するための避難先として円が好まれる傾向にあるのです。

「日本は不景気だし借金まみれの国じゃないの?何で安全資産なの?」

ここで一つ、このような疑問を持たれた方もいるのではないでしょうか?

確かに、日本は多額の借金を抱えた負債国です。

しかし、それ以上にお金を貸し出している「世界一の債権国」である事も忘れてはいけません。

したがって、今すぐに経済が破綻するような事は考えにくいのです。

また、日本は外国と比べれば紛争などが起こる可能性も限りなく低く、政治的にも比較的安定しています。

普段日本で暮らしているうちは気が付きにくい事ですが、こんなに安全な国は他にそうそう無いと言っても過言ではありません。

こういった理由から、有事の際におけるリスクオフの局面では円の需要が高まり、円買いが進行するケースが非常に多いです。

市場がリスクオフへ向かう際の背景には

  • テロや紛争などの地政学リスク
  • 選挙や国民投票などの政治的不安
  • 株安(ダウや日経平均など)や原油安などの経済的不安

などが挙げられます。

たとえば、記憶に新しいところで言えば、英国のEU脱退を巡る一連の騒動「Brexit」は2016年の中でも特に大きな円高要因となりました。

英国は世界における金融・経済の中心地ですから、EUの脱退がどれだけの混乱を招く事になるかは容易に想像できるというわけです。

緊張感に包まれる中、世論調査や政治関係者の発言などに対して誰もが敏感となり、脱退へ傾きそうな材料が出る度にリスク回避目的の円買いが進行したほどです。

そして脱退の是非を問う国民投票日の日(6月23日)、私たちは歴史的な瞬間を目の当たりにしました。

直前の世論調査においては残留派が濃厚とされていたにもかかわらず、蓋を開けてみればまさかの脱退派が優勢という結果に終わったのです。

当然、英国の通貨である「ポンド」は急落、一方では避難先の通貨として「円」への需要が高まり、全面的な円高が進行しました。

中でもポンド円に関しては1日で28円もの下落を見せるなど、まさに記録的な数字となりました。

なお、円はリスクオフ時に買われる一方、ひとたび明るい兆しが出た場合には一転して売り戻される性質を持っている点にも注意が必要です。

たとえば、2016年11月に行われた米大統領選などがその例です。
(民主党:ヒラリー・クリントン氏 vs 共和党:ドナルド・ドランプ氏)

基本的に、クリントン氏の掲げる経済政策はオバマ政権時の政策をある程度引き継いだ内容である事から、同氏が当選した場合の為替相場への影響は比較的限定的と予想されていたのに対し、 トランプ氏の政策の中には実現性に欠けるものも見られ、当選した場合の予測が難しい事から、不確実性を好まない市場への影響が懸念されていました。

そのため、選挙に向けてトランプ氏絡みの報道が流れると市場は一喜一憂し、円高に振れる場面も多く見られました。

そして選挙開票当日、各州における集計が続々と発表されていく中、徐々に流れはトランプ氏優勢へ。

それに伴う形で市場の懸念も急激に高まり、ドル円は数時間で4円も下落するなど大幅な円高を見せました。

集計発表が終わり、結局はトランプ氏の勝利が確定したわけですが、面白いのがその後の動きです。

なんと、大方の予想(トランプ氏が当選した場合、円高が進行する)に反し、市場は全面円安へと向かい始めたのです。

その要因としては、

  • 当選前は過激な発言を繰り返していたトランプ氏が、当選後の会見では非常に穏やかな「大統領らしい」素振りを見せた事で負のイメージが弱まった
  • トランプ氏が打ち出す規制緩和や大幅な減税、大規模なインフラ投資拡大といった経済政策へ注目が集まった
  • 選挙を終えた事で、不安材料が一通り吐き出された

といったものが考えられています。

もちろん、何が本当の正解か特定するのは簡単な事ではありませんが、いずれにしても共通するのは「政治への期待感が高まった」という事です。

このように、一度リスクオフに流れたリスクオンへと転じると、しばらくはその動きが継続しやすいのも円の特徴と言えるでしょう。

経常収支

経常収支とは、外国との貿易などによって発生した収益と支出の差額を示す経済指標の事で、以下の4つから構成されています。

※経常収支の内訳

  1. 貿易収支:輸出額-輸入額
  2. 所得収支:日本企業が海外で稼いだ金額-外国企業で日本で稼いだ金額
  3. サービス収支:日本への観光客が落とした金額-海外への観光客が落とした金額
  4. 経常移転収支:発展途上国への経済援助などの金額

経常収支が為替に与える影響としては、

  • 経常収支が黒字 → 円高
  • 経常収支が赤字 → 円安

といった流れに傾く傾向にあると言われています。

たとえば、経常収支が黒字化した場合、日本企業は貿易で得た外貨を日本円に変えて持ち帰る必要があります。

そうなれば、必然的に円が買われる事になり、結果として円高が進行するというわけですね。

反対に、経常収支が赤字となった場合、輸入のために外貨を手に入れなければならないので、円を売る動きが広がり、円安が進行します。

日本の経常収支は各項目ごとでプラス・マイナスはあるものの(たとえば、経常移転収支の面から見た場合、日本は大幅なマイナス)、トータルで見れば大幅な黒字となっています。

したがって、「国際収支説(為替レートは国際収支によって決定されるという理論)」の観点から見た場合、日本は円高に走りやすいという事になります。

もっとも、一方ではこの動きに関して疑問視する見方もあるので注意が必要です。 というのも、日本企業が外国で得たお金をそのまますぐに日本円と交換するとは限らないからです。

多くの場合、そのお金を元にさらに増やそうとするはずです。 設備投資であったり、雇用の増加であったりと。

そうなると、円へと変わるまでにはタイムラグが生じる事になるでしょう。

そのため、経常収支の数字はあくまで相場を見る上での指針の一つ程度に留めておくのが無難かもしれません。

クロス円の見方

それでは、より具体的に、円が絡んだ「クロス円」通貨の動向を見て行く上で重要な事とは何でしょうか?

まず最初に必ず押さえていただきたいのが、「現実にはクロス円という取引は存在しない」という事です。

これについて、頭に「?」が浮かんだ方もいるかもしれないので、順を追って説明していきたいと思います。

たとえば、私たちはユーロ円という通貨ぺアのロングポジション(買い)を建てた場合、あたかもユーロを買って円を売っているような感覚になりますが、実際はユーロと円が直接的に取引されているわけではありません。

実需の面で見た場合、ユーロと円の取引は非常に限られている事から、流動性という意味でもその間には基軸通貨であるドルを介在させて取引が行われています。

つまり、ユーロ円とは、ユーロドルとドル円を掛け合わせて作られた「仮想通貨ぺア」とも呼べる存在なのです。

言うなれば、FXの世界だけで登場する通貨ぺアといったところでしょうか。

したがって、ユーロ円の買いとは、

①円を売ってドルを買う(=ドル円の買い)
②ドルを売ってユーロを買う(=ユーロドルの買い)

を同時に行っているという事を意味します。

そのため、クロス円の動きの特徴としては、掛け合わせに使った通貨ペア双方の影響を受ける事が挙げられます。

こういった理由から、クロス円を取引しようと思ったら、単体のチャートではなく、必ず複数のチャートを見た上で動きを掴む必要があります。

ユーロ円の見方

ユーロ円を取引したいと思った場合、チェックすべき通貨ぺアは

  • ユーロ円
  • ユーロドル
  • ドル円

の3つです。

①ユーロが相場を主導する場合:ユーロ円とユーロドルは同じような動き

②円が相場を主導する場合:ユーロ円とドル円は同じような動き

③ドルが相場を主導する場合:ユーロ円の動きは鈍い(ユーロドルとドル円が反対へ動き、結果として動きが相殺されるから)

こう見ると、ドルが主導となって相場を動かしている時にユーロ円を触るのはあまり適切でない事がわかりますよね。

逆に、ユーロもしくは円が主導となっている場合、各通貨の流れが整合的となり、その方向へ伸びやすくなるのです。

ユーロ円に限った話ではありませんが、基本的にはドル主導で動いている時のクロス円は取引対象として外すのがベターといえるでしょう。

※その他のクロス円を取引する際にチェックすべき通貨ぺア

  • ポンド円:ポンド円、ポンドドル、ドル円
  • 豪ドル円:豪ドル円、豪ドルドル、ドル円
  • カナダ円:カナダ円、ドルカナダ、ドル円

なお、クロス円の中でも豪ドル円やカナダドル円といったいわゆる資源国通貨とのペアは円との相関性が特に強いので注目です。

たとえば、原油安などによるリスクオフの局面では、そういった通貨から安全資産である円にお金が流れ込むため、

  • 資源国通貨(豪ドルやカナダドル):売り
  • 円:買い

となり、最大効率で豪ドル円やカナダドル円は下落していく事になります。

一方、リスクオンへと転じれば、高い金利を求めて再び円から資金が撤退していく事になり、最大効率で買い戻される事が予測されます。

したがって、もし現在の為替におけるテーマが資源国絡みのものであった場合などは、選択肢として豪ドル円やカナダ円といったクロス円を考えるのは大いにアリです。

資源国通貨はユーロやポンドなどに比べてやや取っ付きにくいという印象はありますが、こういった事をしっかりと押さえておけば逆にチャンスが多くなる場合もあるので、敬遠せずに動きを見ておくと良いかもしれませんね。

まとめ

以上、円の特徴や変動要因、実際の戦略などについてお伝えしてきました。

円は何かと複雑で、金融政策や世界的なリスク要因などにも目を向けなけらばならないので、初見で混乱されてしまった方もいるかもしれません。

しかしながら、冒頭でも申し上げたように「ただ何となく」円を取引対象として選ぶのと、しっかりと性質を理解した上で選ぶのとでは、まるで見えてくるものが変わるはずです。

円を取り巻く環境は今もなお刻一刻と変化しており、情報の取捨選択に戸惑う事もありますが、少しずつ理解を深めていきたいものです。

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